住民が発見したクロゴケグモ

1995年11月に大阪府高石市でのセアカゴケグモ発見が報道されると、全国的に「毒グモ騒動」が広がりました。住民にとって、第一の関心事は、当然のことながら、「自分の身の回りにも毒グモはいるのではないだろうか?」だったことでしょう。

自治体等の公的機関が地域で調査を開始し、三重県四日市てもセアカゴケグモが発見されました。また、12月以降は横浜市その他でハイイロハゴケグモも見つかりました。

一方で、住民個人も周囲に注意を払ったであろうことは想像に難くありません。

岡山県の地方新聞『津山朝日新聞』は11月30日付で「毒グモでは?津山保健所へ通報」と報じました。セアカゴケグモの特徴である赤い斑紋は見られなかったということですし、続報もなかったので、無害な在来種を誤認したものと思われます。世間一般にはクモの種類がわかる人は少ないので、「クモを見たら
毒グモと思え」状態になったとしても、それはやむを得ないことだったと言えましょう。

しかし、滋賀県では瓢箪から駒が出ました。12月20日付の『京都新聞』と『毎日新聞』によると、坂田郡山東町(2005年以降は米原市)で「ゴケグモ属の一種」が発見されました。このクモは後にクロゴケグモと判明しました。日本列島初記録です。

見つかったのは農機具製造工場で、アメリカにトラックターを輸出し、戻って来た空のケースの中にいたそうです。とんだ「お移り」でした。

「毒グモ」報道がなかったら、見過ごされていたはずです。報道の加熱を苦々しく思う人も少なくなかったようですが、やはり事一般に実は知らされるべきだと思っています。

セアカゴケグモのオスの毒性は?

駒ヶ根市における長野県第3例目のセアカゴケグモ発見は、地元紙の『信濃毎日新聞』紙上にカラー写真付きで報道されました。

ここで注目されるのは、「おすは小さくて人をかめない」という記述です。これまで新聞紙上で、「毒があるのはメスだけ」という記述はしばしば見られましたが、このよう表現は初めて目にしました。実際のところ、ゴケグモ類のオスに毒はあるのでしょうか?

「『オスに毒はない』は誤り」と断言する研究者もおられました。実際にテストした例はないとも聞いています。

実験する人が現れないのは、特に応用部門の研究者にとって、この種の研究が生産性の低いものであることが考えられます。

メスと比べてはるかに小さなオスから毒腺を取り出すのは技術を要します。また、実験に使えるだけの分量を集めるのも手間がかかります。その上、結論はほぼ見えています。容易に予想できる「ゴケグモ類のオスに毒があったとしても、量が少なく、かつ牙がヒトの真皮に達しないため、害はない」が、「毒はあるが・・・」に変わるだけです。

これでは、労力と時間と費用、それに検体の生命を費やす意味が見いだせるかは疑問です。無論、事実を究明することには意義があると言えましょうが。

長野県のセアカゴケグモ

本年(2020年)の10月5日に長野県駒ヶ根市でセアカゴケグモが見つかりました。同県では3例目に当たります。

第1回目は2019年8月8日に飯田市で、2回目は同年12月20日、下伊那郡松川町でした。3市町とも、江戸時代までは「伊那郡」と呼ばれていた地域で、県の南端に位置します。地勢的に見て、東海地方から車両に付着して運ばれた可能性が大です。全国的には45番目の都道府県で、ゴケグモ類が全く見つかっていないのは、青森県と秋田県だけになりました。

発見数は1個体ずつで、続報は出ておらず、単発の侵入で定着はしていなかっものと思われます。その限りにおいては、「当面は長野県では根絶」と言ってよいでしょう。無論、今後、第4、第5の個体が入り込む可能性があり、根絶・侵入の繰り返しになりましょう。世に言う「いたちごっこ」です。いたちごっこの際限ない繰り返しは疲れるもので、「もういいや」と駆除を諦める人も出てきかねません。そうなったが最期、セアカゴケグモは定着してしまい、我々にとってもっと過酷ないたちごっこを延々続ける破目になります。この根比べに負けるわけには参りません。